ドクターズルーム

4月30日
開業12年。人の横に立って見えること
 「さっさと開業してしまおう!」まったくその気の無かった主人に念仏のように毎日囁き、平成3年11月に当地で開業。軽装備でチャチャっとやろうと思っていた私とは裏腹に、その気になりすぎた主人が(不要な?)器械を買いまくって、おまけに入院設備までつくって結局は借金だらけ。知らない土地で開業して、来る日も来る日も患者は数名程度。それでも無知なのか、呑気なのか、あまり何も考えずに仕事を続け、いつの間にか12年の月日が流れ現在に至った。

 最近よく考えるのは、「猫に地面を歩かせ、犬に塀の上を歩かせてはいけない」ということ。患者に接するのが好きで現場でどんどん仕事をしていくスタッフに、 よく働くからと抜擢して役職をつけると、せっかくのびのびと仕事をしていたのがダメになってしまう。現場でのびる才能と管理能力は、どうも別物らしい。
 私自身、好きなことは没頭するが管理・事務関係はいやでいやでしょうがない。だから人の上に立つことはできないし、大した計算能力もない。ただ「人に説明するのがすき」なんで、自分が本や講演会・学会で感動したことを患者に「熱く語る」のが性に合う。一人の患者に1時間くらいかけて語り続けることもあり、まるで琵琶法師みたいと言われる。A型できちんとした性格(血液型で何がわかる、と思っている方には怒られそうだけど)の主人が粛々と診療をしているからこそ、医院が成り立っているようなもの。

 現場ではスタッフの才能を発揮する方向がそれぞれ違う。横で見ていると、本当におもしろい。糖尿病の勉強をすすめたら、一人のナースが糖尿病療養指導士試験に受かり、こんこんと患者に説明している。はじめはアガッて声が裏返って、患者に「今日は忙しいけんな」とか「もう先生に聞いて知っとるから」と、そそくさと逃げられていたのに、今はまるで女優のよう。低血糖のこと、合併症のこと、SMBGのこと等を驚くほど上手にわかりやすく説明し、患者の方も熱心に聞きいっている。
 「先生、糖尿病の試験はかんべんしてな!」といいながら、特異な才能を発揮しバリバリやっている者もいる。机から戸棚から徹底的に整理整頓。私の診察室も机の上から始まって、何もかも綺麗に整理してくれる。主人の「1診」に比べて汚すぎるらしい。「掃除大臣」敬意を持って、私は彼女をそう呼ぶ。
 私の診察室の本箱に「○○の本借りています」とメモを貼っていくスタッフもいる。これを見ると、ちょっとうれしくなる。もともと(いや、今でも?)「マンガなら読むけど、新聞なんか読まないもん!」というタイプの子だったのに、好きなことなら勉強したいらしい。昔、彼女に「あなたの脳は筋肉?」と言ったこともあったっけ。内科のことは相変わらずピンとこないようだけど、私が最近やっているスキンケアの分野についてはたいそう興味があって、ごく短い間に誰よりも深い知識を身につけた。今では彼女の右に出る者はいない。内科の落ちこぼれナースが、スキンケアの花形ナースに転身してしまったのだ。

 5、6年前にインシデント・アクシデントレポートというのに力を入れたことがあった。「ひやり・はっとレポート」ともいう。私が何かの雑誌で見て「これ、 いいかも」と導入してみた。最初は、始末書と間違われてスタッフからは大変不評だった。今後どうするかという欄に「以後、気をつけます」とか「がんばります」とか書いてあって、「違う、そんなことじゃなくて一人がミスしても別の人が気付くシステムをつくるんよ」と何度も説明した。間違えやすい薬もできるだけ置かないようにしたり、薬局の棚に張り紙をしたりした。
 先日、なんと自分がアルマールとアマリールを間違えてカルテに書いてしまった。即、ナースが診察室の机の横に仁王立ち。腰に手をあててカルテをひらひらさせながら「先生、これ間違いやね。なおしとくわね!」と勝ち誇って言ってきた。「ごめん、ごめん、なおしといて」とあやまりながらも、「5年前の○○さんなら、絶対気付かなかったなあ」と思いつつ、「私の苦労もムダじゃなかったんだ」と少し感激した。あっ、それより自分が気をつけよ!ですか・・・やっぱり。

 スタッフのヤル気を高めるのは、やはり誉めるのが一番いいんだなと思う。自分だって誉められたいわけだし。「先生ありがとう」とか「そんな治療法もあるんですか、すごいですね」って。
 仕事のやりがいって何だろうと考えると、「こんな自分でも誰かの役に立ってる、ちょっとしたもんだな」と感じる瞬間にあるような気もする。結局は、医者もスタッフも同じということかな・・・。
 
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